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最高裁判所第二小法廷 平成3年(あ)731号 決定 1991年9月24日

本籍

福岡県直方市大字下境一六二七番地

住居

福岡市城南区鳥飼五丁目一九番一〇号 高田ビル一〇一号

公認会計士

松岡正一

大正一四年三月一五日生

右の者に対する法人税法違反被告事件について、平成三年五月三〇日大阪高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人滝口克忠の上告趣意は、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平 裁判官 大西勝也)

平成三年(あ)第七三一号

○ 上告趣意書

法人税法違反 松岡正一

右被告人に対する頭書被告事件につき平成三年五月三〇日大阪高等裁判所第四刑事部が言い渡した判決に対し、弁護人から申し立てた上告の趣旨は左記のとおりです。

平成三年八月二七日

右被告人弁護人弁護士 滝口克忠

最高裁判所第二小法廷 御中

被告人を懲役二年六月及び罰金二、〇〇〇万円に処した一審判決を支持した原判決はこれを破棄しなければ著しく正義に反する量刑不当の過ちを犯しており、刑事訴訟法四一一条二号に該当するので破棄されるべきであります。

以下その理由を述べます。

即ち、原判決は本件は被告人が公認会計士という立場にありながら合計一四億五三〇〇万円余りの大型脱税事件に関与し、しかも計画的で手口も悪質であるとして控訴を棄却したのですが、被告人にはなお次のとおり有利な情状があります。

一 即ち、被告人は共同被告人古田(以下古田と略称)から東京パブコ等の経理及び税務申告事務等を依頼され、これを引き受けることになりました。

ところが右東京パブコ等においては前の脱税事件のため、本件申告にあたり正規の納税金の資金繰りがつかず、右古田らが三年間右東京パブコ等を存続できるようにして欲しい旨被告人に指示したことから、被告人としても一時的に脱税する以外に手段がなく、所得の圧縮方の方法があり圧縮分については後の申告に際し、順次戻していけば良いという方法があることを示唆したところ、右古田らもこの方法による脱税を被告人に指示したため本件に及んだ次第です。

つまりよくあるように、脱税しっぱなしではなく、後に脱税分は納税するという考えは犯情としては他の同種事案が脱税のしっぱなしであるのに比し、特に斟酌されるべきであります。

そして事実、次年度等の納税にあたっては、これを現に実行しているのです。

このことは次年度等において、過多申告になりますので、正規税額分より多額の納税をしたことを意味します。

つまり全体的に見れば、実質的な逋脱額は高額でなかったのです。

しかるに原判決はこれらを被告人に有利な情状として実質的には考慮されておりません。

二 次に中谷善秋に支出している金六億七〇〇〇円余りの金員については経費あるいは損金と処理するのは法的に問題ではありますが、事実上支出しており、東京パブコにおいては経理処理上は物品税としての支払いとして扱っています。

被告人としては税務当局が好意的、便宜的取り計らいをし(このようなことはままあることです)、経費として認めてくれるのではないかと考え、右のことを税務当局とヒアリングをし、いわばお伺いをたてていたわけです。

しかし、当局において本件申告前、被告人の申出を全くだめであるとまでは言わず、申告後、否認しました。

そこで被告人らもすぐこれに応じ、修正申告をし、その分も納税したのですが、税務当局も右経緯があったため過少申告税までは徴収しなかったわけです。

法的に右六億七〇〇〇円余りが経費であるとまでは主張しませんが、右のことは犯情としては強く斟酌されるべきであります。

この点についても原判決は一応考慮するとされていますが、これも事実上は被告人に有利な情状として考慮されておりません。

三 次に原判決は被告人が起訴こそされていませんが、右古田や片岡らから国税局工作などと称して多額の金員を受取り、これらの殆どを自己の用途に費消するような所為にも及んでいる点も一情状として指摘されています。

しかしこの点について被告人のみを責めるのも酷であります。

右古田らも右不正な工作を是とし、いわば不法原因給付的に多額の金員を支出したわけです。

いわばどっちもどっちということであり、さほど右古田らの被害を考えその保護をする必要もなく、だからこそ検察官も起訴されなかったと思われます。

そして、言うまでもありませんが、最高裁の判例にもありますように、起訴されていない余罪についてはこれを独自に処罰の対象とすべきでなく、あくまで一情状としてのみ評価すべきであります。

しかし原判決はこの点を一情状と考慮するとされながら、実質的にはやはり一情状としてのみ評価すべきを超えた量刑をされております。

四 被告人の反省の情顕著で再犯に及ぶおそれは全くなく、本件罰金も納入出来ない状態にあります。

被告人はその生真面目な性格からして、逮捕当初から公判段階を通じ、一貫して犯行を認めております。

被告人の自責の念が強く、被告人に脳梗塞が起こったのもこれが相当影響しているのではないかと思料します。

被告人は現在でも福岡大学病院に週三回通院しております。血圧も時には一七〇台になる等なお心配な状態が続いています。

その上被告人は現在、原判決でも認定していただいたように、本件後自宅を含む財産の大半を失った上、相当重度の脳梗塞等に罹患したため、収入を得ることが出来ない健康状態になっております。

そのため長男や養女らの援助によって細々と生活をしているのですが、近時においては家賃を数カ月分も滞納するような状態に陥っています。

一審において罰金刑の求刑に対し、相当減額された罰金刑を言い渡された点感謝している次第でありますが、残念ながら被告人にはこれを納付する資力がなく、また援助者もいません。

即ち、一〇〇日間の労役場留置を受けざるを得ません。

このことは事実上懲役三か月余りが加算されることを意味します。

加うるに、被告人は今後脳梗塞が再発すれば死に至るという健康状態にあり、今はいわば生ける屍同様の状態であります。

このような被告人についてどうしても実刑判決でなければいけないという量刑上の理由はないと言っても過言ではありません。

五 以上述べたような被告人に有利な情状を考慮すれば、一審判決の懲役二年六月及び罰金二、〇〇〇万円という量刑を支持した原判決は裁判所による相当な裁量の範囲を逸脱し、これを破棄しなければ著しく正義に反する不当な量刑と言うべきであります。

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